私立秀麗華美学園
雄吾の問いかけの意味は間もなくわかった。

パーティー当日は朝から学園中が騒がしかった。
大集会が行われるのは高等部だけではない。会場は違えど中等部でも同じような集まりがあるため、学園内にはすごい数の人が集まりつつある。


「毎年のことながらすっげえ賑わい。開場は5時で、開演が6時だったよな」


昼食の後、寮の部屋の窓からメインホールの方を見ると既に人は溢れかえっていた。


「ああ。人の群れは、まだほとんどが業者だろう。会場の設置や飲食物の準備に奔走してくれているんだろうよ」


みのるが来た時には日も随分暮れていて、ドアを開けると冷たい空気が滑り込んできた。


「そろそろご準備の方を。馴染みの者を連れて参りましたので」


スタイリストらしき数人が部屋に入り、あれよあれよという間に着替えと髪のセットをされる。あんまり来られても困るので雄吾とまとめてやってもらうことになっていた。時計を眺めつつだらだらしていた俺と違って、雄吾はスーツを身につけるところまでは自分で終えてたけど。

頭をいつもより長々いじくられてたなあと思ったら、分け目の右側が部分的なオールバックみたいにされていた。なんだこれは。


「たまにはそういったワイルドなイメージもよろしいかと思いまして。お似合いですよ」


鏡を見せられたが自分ではよくわからず雄吾の見解をうかがう。


「ほんの一部分だから丁度いいんじゃないか? 本当にオールバックだと似合わないかもしれないが。少し変わった印象で、俺は良いと思う」


雄吾に言われたので、よしとした。


30分ぐらいで支度は済み、時刻は5時半を少し回ったところだ。


「鳥居くんは本当に手がかかりませんねえ」


みのるのことだからたぶん嫌味ではない率直な意見なのだろうが、プロのスタイリスト陣にこうも揃ってうなずかれると、複雑なところではある。

ノーネクタイでチャコールグレーのスーツ着て、ちょいちょいっとワックスつけただけでこれだからなあ。服に着られているどころか、恐れ多くも着てやっているというレベルだ。中に合わせた黒地のストライプシャツが大人っぽい。

俺はというとえんじ色が自分に似合っているのかどうかもよくわからないし、肩幅が広くないのでジャケットの肩の部分には若干手を加えてもらった。ネクタイの色もピンもみのる任せだ。

じーっと自分を見下ろして袖を引っ張ったりジャケットの金ボタンをいじくったりしていると、みのるが念を押すように言った。


「今宵の装い、よくお似合いですよ。あと数十分もすればぼっちゃまにも、十分ご理解頂けるかと思います」
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