私立秀麗華美学園
終業式も終わり、パーティーの前日の12月23日、みのるが家族に先駆けてやってきた。


「お久しぶりです、鳥居くん」

「こちらこそ。お元気そうでなによりです」


明日の衣装を置きに部屋へ来たみのると雄吾が鉢合わせた。去年のパーティー以来だから1年ぶりだ。

雄吾と並んでみても、みのるは遜色ない風体をしている。容姿も立ち居振る舞いも。
つくづくこの世は不公平だ。


「今年は、鳥居家の方々は?」

「両親と妹が、共に。そちらはご兄弟がいらっしゃるそうで」


そう、うちは両親が来ない代わりにご兄弟が揃いで来るそうだ。兄貴と姉ちゃん。それから那美さんも。


「ではまた後日。坊っちゃまはご夕食の折に」


みのるが恭しく一礼して退出する。この時期になると学園の近くのホテルが貸し切りになり、関係者がこぞって宿泊することになる。今夜はそこで泊まるのだろう。


「いよいよ明日かー。あー、さっさと終わればいいのに」

「和人、それ、自分で選んだのか?」


壁に吊るされた、えんじ色のスラックスとかっちりめのジャケットを見て雄吾が言った。


「いくつか選んだから、その中から選んでくれたっぽい。思ったよりカジュアルだなあ」

「……そうか」

「なんだよ」

「別に」


意味深な雄吾の呟きへの疑問は総スルーだ。まあいつものことだけど。


別に服なんか、兄貴のお下がりでいいんだけどな。丈詰めてくれさえすりゃ。
そういうわけにもいかないのが社交界のしがらみだ。


「そうだ、さっきみのるに聞いたけど、兄貴たちがついに入籍したらしい」

「おお、ついにか。それはそれはおめでとうございます」

「挙式は年明けてからだって。あの人も少しは落ち着いてくれればいいんだけどな」


婚約者、という言葉を使うことが普段あまりないだけに忘れそうになるが、俺たちにとって結婚は身近な言葉であると捉えるべきだ、と昔誰かに言われた。
想像上の未来というよりは、現実の進んだ先にあるものだ。


「あと1年」

「何が?」

「結婚できる年齢まで」


そうか。18歳までは、あと1年。


「もうあと1年なのか」

「まだあと1年もあるんだ」


笑みをたたえて雄吾。
あえてそんな言い方をしてきたことがわかっていつつも、からかい返す言葉は思いつかなかった。
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