私立秀麗華美学園
ドアを通った途端吹き付けた風に身震いした。ドアを片手で押さえて、グラスの乗ったお盆を持った真理子さんを通らせる。4人がけのテーブルに、斜めに向かい合って座ったゆうかとみのるのところへ向かった。


「ありがとうございます」


立ち上がって俺のお盆から料理を並べるみのる。白い息を吐く彼の肩に、真理子さんが無言でコートをかけた。


「ありがとう」


ちらりと彼女の方を向いてみのるが言った。こういうことを、初めて見たというわけではない。だけど見逃してしまいそうに自然なそのやりとりは、意識して見てみればかえって目に焼き付いた。


「ありがと、ほんとに、よく見つけて来たなってぐらい好きなものばっかり」


ゆうかは皿を見てとても嬉しそうに言った。そんな笑顔見れるなら何回でも階段往復するけどな、と思う。


「まあ、ストーカーですから」


多方面から言われていること。自分で言ってしまうのにも躊躇がいらなくなったのは、公認だと胸を張れるようになったから。


「それだけの時間をお二人は過ごして来られたわけですよ」


やたらにっこにこのみのるが料理を取り分けながら言う。

「幸せになって欲しいわけです」いろんなはからいの理由を、そう述べていた。


「幸せだけどなー」


隣に座ったみのるにだけ聞こえるぐらいの声で呟く。向上心ねーなって、前も思った気がするけど。進まず停まっていることを選びたいぐらいには、十分足りてる。

ゆうかが目の前にいるってだけで、今日という日の価値を感じている。
そんな自分が馬鹿みたいで、だけど幸せなんだと思う。


「お節介は、ほどほどに致します」


一転殊勝な呟きは、クリスマスイブの夜空に消えた。
















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