私立秀麗華美学園
最初のLHRで席替えをして隣が槙野さんになり、「あ、にこにこの月城くんだ」と言われた。斜め前が進なのは、よしとするべきか否か。
ゆうかとはまた結構離れた。机5個分ぐらいの距離だ。

進の上っ面は相変わらずだったが、俺の前に対してのあっけらかんとした物言いは、女子生徒の前でもするようになった。頭こんがらがらねーのかなと思うけど、そこは取り繕いじゃなく素でそうなっているらしい。


「おいやっと五大湖覚えたと思ったら三大瀑布忘れるってどうなってんだ」

「忘れるも何も覚えてねーよ……」

「ナイアガラの滝と、イグアスの滝、と……何だったかしら」

「地理は選択していないのに、さすがだね槙野さん。もう一つはヴィクトリアの滝だよ。ジンバブエとザンビアにまたがっていて、イギリス女王の名前ってことで有名だよね」

「……お前も地理選択じゃねーくせになんでそんなもん覚えてんだよ。雑学王でも目指してんのかよ」

「るせーなクズ意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇよ」


そしてそれぞれの滝は国境に位置していてなんたらかんたらと語り続ける進。まあ確かにこんだけ言われりゃ俺だって覚えるわな。お節介なんだかなんなんだか。

初めの頃は驚いていた槙野さんも今では慣れたようである。


「ちょっとびっくりしたけど、あまり違和感もないものね」


言葉遣いを変えていなかったとは言え、やつの女尊男卑は察知されていたということだろうか。


「仮面紳士って、どうなわけ?」

「うーん。そうねえ」


学園祭の準備の時、笠井に微笑まれて、きゃーきゃーって感じになっていた槙野さん。純粋に疑問に思ったので聞いてみた。
真剣な顔で考えてくれている。


「容姿端麗であの笠井家の次男でおまけにスポーツ万能で、って、本当になんだかすごいのよね彼。わたしは逆に親しみが湧いたような気がするわ。
なんだかんだ言って男の子、と言うか月城くんにも、優しいことは優しいみたいだし」


まあそれは、否定しないけど。


「周知のアイドルみたいな存在なのかしらね」

「あー、好きとか、そういうことではなくて、か」


少し前に松本さんが言っていた「ラッキー」とかを思い出す。


「もちろん本当に好きだって人もいると思うけれど。笠井くんの方だって、全員に真剣ってことないでしょう。
……あと、わたしの場合は、ね」


笑顔の槙野さんが声を潜める。


「好きな人が、いるの」

「……へぇ!」


聞けば、同じ部活の先輩だと言う。槙野さんはフリーの生徒だ。部活と言う単語に俺の繊細なハートが痛んだことは隠しておく。

好きな人、なんて言葉久しぶりに聞いたな。
茶目っ気たっぷりに笑う彼女の気持ちが届けばいいなと、柄にもなく思った。









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