私立秀麗華美学園
かろうじて聞き取っていた通り、その10日間、ゆうかは忙しくしていた。

生徒会とクラスの委員長副委員長でチームを組んで、来年度の新入生のオリエンテーションの準備を始めていたからだった。一緒に登下校できる日が減って、それでも何日かはあったのだが、「デート」の話題がでることはなかった。

雄吾に話したのは、言われた日の週の末になってからだった。少しは自分で考えたかったけれど、他人の目から見た俺は挙動不審の極みだったそうで、折れた。


「……聞き間違いではなく……?」


真顔でそんな酷いことを言われても俺は「たぶん」と返すことしかできなかった。


「白上先生とあの庭師の話に影響を受けたとしか思えないな」

「やっぱりゆうかが俺をデートに誘うのは客観的に見ても不可解な現象ですよね」

「否定できるものならしたいところだが」


ベッドに寝転んだ不可解顔の雄吾に、自分のベッドの側からにじり寄る。



「普通に考えたらさ、何か、話がしたいってことだよな」

「まあそうだろうな。突然誘ったということは」

「でさ、それが椿先生の話に関係あるんだとしたらさ、」

「ああ」

「猶予期間の意味を、汲むことにした、みたいな……」

「つまり?」

「別れ話、とか……」


だって話の内容を振り返ると、影響のされ方ってのがそれぐらいしか思いつかない。

槙野さんみたいに奮起したんだとしたらどうしよう。


「……もうお前のネガティブには嫌気が差してきた」

「だって冷静に考えたらそうなった」

「俺は直接話の内容を聞いたわけでもないし、はっきりと言うことはできないが。それでも、最近の流れからしてそういうことではないだろう」

「俺だって、いい方向に向かってると思ってたけどさあ……」


情けないけど自信が持てない。逆の想像ならすぐについてしまう。


「まあ向こうから言ってきたことだし、受け身でいればいいんじゃないか?」

「うん……しばらく待ってみるけどさ……あれ以来話出て来ないから忘れてるのかもしれないし……」


もう何も言うまい、という顔の雄吾を傍目に、俺のネガティブ妄想は続いていった。
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