私立秀麗華美学園
15章:バレンタインデート
ゆうかから衝撃的な提案がなされてから、1週間が経過した。



デートしよっか、はいしましょう、なんてさらりと返事ができるはずもなく、ガラス戸の前でかたまってしまった俺の目の前でゆうかは手を振ってみせた。
そして口から飛び出て来たのは「冗談よ」ではなくて「しばらく忙しいから先になるけど。2週間後ぐらいになるかなー」という現実的なもの。俺があまりにも反応を返さないのでゆうかは自分でガラス戸を開けて「じゃあね」と自分の部屋へ帰ってしまった。

丸々1分経ってから俺が部屋へ帰ると、雄吾はいなかったため俺は思う存分呆けることができた。


観たい映画があるだとか用事があるだとかでゆうかが街に行く時に同伴者として仕方なく俺を選んだり俺が用意周到に準備をした上でなんとか外出の約束を取り付けるとか、そういうことは今までにもまああった。

が、それをデートだとゆうかが認識していたはずもない。っていうかデートしよっかってあんたそんな言葉どこで覚えてきたんですかっていうか知らなかったはずもないんだけど意味わかってて言ってるんですかみたいな。

混乱を極めた俺は誕生日に雄吾からもらった書籍シリーズの中から大辞典を引っ張り出して来てデートの項目を引いた。俺の知ってる意味で合ってた。よかった。じゃなくて。


今こそ盛大ににやけるところだろうというのに、どうしても素直にそうできなかったのは、あまりにもサプライジングでダイナミックでアメージングでセンセーショナルだったせいもあるが、椿先生の話を聞いてからのゆうかの表情が冴えなかったことが、気にかかっていたからだ。

しかしとても冗談には思えなかった。

どうしてあんなに突然言い出したんだろう。


コートを着てかばんを持ったまま部屋の真ん中で大辞典を広げた俺は、突如起こったミラクルを、受け止めきれずにいたのだった。
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