私立秀麗華美学園
「脱走って……」

「もちろん、学園に帰るためです」

「……なんでそんな、詳しいことがわかってるんだ?」

「さらわれたことがわかったのは花嶺から連絡があったからですが、脱走を試みた夜のことまでは持田様から私がうかがっていたため、原因や経緯が明らかになりました」

「花嶺からはなんて?」

「話し合いとやらに応じざるを得ないことになったが、向こうの考えもまだわからない。
有事の際には賢明なご判断を求める、ということでした」

「有事の際って……」


みのるからの返事はなくて、説明できる範囲はここまでのようだった。

それにしても、家の者をただ迎えに来た使用人にしては詳細を知りすぎている。それは元々みのるの持っていた情報が「詳細」にあたる重要なものだったためだろう。

そもそも、はっきりとは言わないが、ゆうかたちが家に知らせるのも間に合わなかった情報をみのるが持っているのは、「脱走」に自ら関わっていたからとしか思えない。


みのるに俺を迎えに来させたのは親父だ。今のことは月城の中で全て明らかになっている。


「みのるは大丈夫なのか……?」


しわのついたスーツの端を見る。髪も洗いざらしのようだ。
急いで来てくれたのだろう。


「親父たちに、真理子さんと通じてたこと、正直に言ったってことだよな? 脱走のことも、最初から知って……」


向けられた顔はいつもと変わらず、穏やかに微笑んでいた。


「私は、和人様のお世話係ですから」
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