私立秀麗華美学園
「……ゆき、あんたねえ。散々必要以上のことやってひっかきまわしといて……」

「やーだひっかきまわされちゃったのはゆうかちゃんの心の中だけでっしょう。ゆき別に、悪いことしてないもーん」


部屋にあがってきたり押し倒してきたりなんだかんだという話は、ゆうかが幸ちゃんと学園で顔を合わせてすぐに幸ちゃんから話していたらしかった。てっきり「和人に隙があるのが悪い」と俺に向けられると思っていたゆうかの怒りの矛先は、まあ俺には全然ってわけでもないけど、ほとんど幸ちゃんに向けられていた。


「和人くんが相変わらずだってわかって、ゆうかちゃんもなんかもうちょー女の子みたいになっちゃうし、こりゃ勝ち目ないなとは思ったんだけど。でもほら、笠井くんもどっか行っちゃったっていうし! ゆき寂しいんだもーん。もう何にもしないからさ。次の好きな人が見つかるまでだって!」

「何にもしないならとりあえずその手を離したらどうかしら」


俺の腕に巻きついた幸ちゃんの両腕を、焦がさんばかりにゆうかが睨みつけるも本人はまったく意に介さない。俺がひっこ抜こうとしてもなかなかの力で締め付けてくる。花嶺家の女の子は、どうしてこうも、いろんな意味で強いんだろうか……。


「ということなので咲ちゃんも雄吾くんもよろしくね」

「あっ、はいはーい」

「はいはーいじゃないわよ何なの咲! しかもなんでちょっと遠巻きに見てるの!」

「雄吾にロックオンされたら困るし、和人が人柱になってくれるならちょうどええかなと……」

「わたしの味方じゃなかったのっ!?」

「今のゆうかと和人なら大丈夫そうやし、幸ちゃんの相手、したげーや!」

「やったあ、それじゃあ親友公認ってことで」

「なんでそうなるの!」


無責任な感じで笑う咲にゆうかが詰め寄る中、やっと腕を離してくれた幸ちゃんの隣に、雄吾がやってきた。


「どうも初めまして。ところでさっきの、よろしくというのは……」

「こちらこそー。そうだよ、これからよろしくね。みんな、同じクラスだから!」


幸ちゃんが掲示板の方を指す。そういうことか。俺とゆうか、雄吾と咲が同じクラスに。そしてそこに幸ちゃんも。
……何だかまた、騒がしい一年になりそうな。
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