私立秀麗華美学園
「和人」


今度はゆうかに腕をつかまれ、人ごみから連れ出される。前にも腕をつかまえられ、ずんずん歩いていくゆうかの為すがままについて行ったことがあったなあと思いだす。


「あーやだやだ腹立つ」

「……ゆうか、さては妬いて」

「ないっ!」


くるりと振り返ったゆうかがあの時と同じ顔をしていたので笑ってしまう。そっか、覚えた。これが、ゆうかの、妬いた顔なんだ。


「……いい度胸してるわね」

「いや、なんか何て言うか、ほら、かっこいい姫だなあと思って」

「だから言ってるでしょ。わたしは、ただ騎士に守られてるだけみたいなお姫様なんかじゃないって。そんな名称どうだっていいわ。和人は、騎士でも下僕でもない。和人は、わたしの……」


楚々とした姫君が、豪奢なドレスや頭に戴いた冠を乱暴に投げ捨てるように。そこまで一息に言って、ゆうかは一旦口をつぐむ。誰が着ていたんだかわからない、重々しく分厚い甲冑も、音を立てて崩れ去り、長かった年月と共にどこかへ流れてゆく。

悔しそうな頬が、これまでに見たどんな色より美しい、薔薇色に染まっていった。



「和人は」

「はい」

「わたしの」





「――――好きな、人!」



















私立秀麗華美学園

――完――
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