私立秀麗華美学園
それから1時間目はさぼって、2時間目との休憩の時間に教室へ戻った。

途中で戻っていたゆうかは、休憩になった途端周りに集まってきていた友人たちに、けろりと笑顔で「なんでもないわ」と返していた。


なんなんだよなんなんだよなんなんだよ
せっかくちょっといいシーンだったのに……しかも、なんでもないってなんか複雑だな。

それにしても、あんなセリフを言ったのは初めてだ。
今更ながら自分のべた褒めぶりに、再び顔が熱くなる。
どれだけ最上の形容詞使ったんだろーな……決して、どれもお世辞ではないのだが。


他にだって言いたいことはたくさんあった。
勉強を辛抱強く教えてくれることとか、昔俺が風邪をひいた時、わざわざ男子寮に来て、苦手な料理を作ってくれて、感動したこととか。
俺にしてはうまくまとめたセリフだなあと思う。


「和人」


顔を上げるとゆうかがいた。
とりあえずのわけを話され納得した様子の友人たちを自分の机に残し、俺のところへ来てそっと肩に手を乗せていた。


「勝負のこと……笠井と争ってるのよね。私が好きな人、っていうのは、一応変わってはいないんだけど、私が応援するのは、自分の騎士の方だからね。
率直に言うと、勝てるとは思ってないけど、せっかく私だって教えてるんだし、やれるだけはやってよね」

「おー……ごめんな、勝手に賭けの対象にしたりとか、して」

「いいわよ。大体、和人からそんなこと言い出すわけないし。のせられたんでしょ? どーせ。それに私、あんまり劇の主役とかはやりたくないしね。相手が誰でもそれは同じよ」


安心して、と言うように微笑み、ゆうかは鐘の音と共に戻って行った。
なびく髪からは、ほのかにあの場所と同じ、薔薇の香りが漂ってくる。

それは決して、甘ったるい香りなんかではなく。
人を惹きつけてやまない、小悪魔を象徴するような香りだった。



















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