。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅵ《シリーズ最新巻♪》・*・。。*・。
あ、あたしの方が戒のこと好きだもん。
とは口に出さなかった。
口に出さなくてもきっと―――伝わってる。
戒はうっすらと微笑しただけだった。
何となく視線を絡めて、どちらからともなく顔を寄せた。
この旅行で何度もキスをした。
けれど
今、この瞬間
今までで一番神聖なものに感じた。
戒の唇がほんの少し潮辛いのは、海のしぶきが飛んだからだろうか。
怖い―――と思っていた海は、あたしたちを優しく包み込み、どこか懐かしさのあるぬくもりがした。
懐かしい……と感じたのは、きっと母さんのお胎にいた、まだあたしがこの姿で世に生み出される前、あたしは母さんに守ってもらった。愛してもらった。たくさん声を掛けてくれた。
「朔羅―――」
戒が母さんと同じ口調であたしを呼ぶ。
愛おしい名前を、包み込むような優しい声音で。
だからあたしも同じものを返した。
「戒―――」
実際、鈴音姐さんが戒を身ごもっていたとき何て声をかけたのか分からない。でもきっと母親っておんなじだ。
早く姿を見たい、早く声を聞きたい。
あなたのこと、こんなにも愛おしい―――
波の音がゆるやかに聞こえてきた。
とても心地よい音。
戒の頬を手のひらで包むと戒はくすぐったそうにちょっと笑った。それでも戒は身をよじることはせず、穏やかに微笑んでいる。
あたしはぎゅっとより一層の力を籠めて戒に抱き付いた。
「このままさー…」
戒は唐突に切り出した。
「このまま俺が朔羅を地平線のまた向こう側まで連れていけたらいいのに」
地平線の向こう側は―――何が待っているのか正直見当もつかない。
日本じゃない違う国に行くのか、それともやっぱり日本で……案外東京と離れてないかもしれない。
でも、地平線の向こう側ってそれだけで夢がある。
着いてみないと分からないけれど、そこには必ず希望がある。そんな気がした。