恋人は社長令嬢
「ねえ、お願いがあるんだけど、いいかな?」

那々香は、近くにいる女の子達に、声を掛けた。

「明日の会議で使う資料が、まだ全部出来上がってないの。手伝ってもらえないかなあ……」

女の子達は、シーンとして、答えもくれない。

「行こう。」

一人が、みんなに言った。

「大村課長を差し置いて、本社に残った人だもの。私達の助けなんかいらないくらいに、優秀な人なんでしょう。」

そう言って、みんなはフロアを出て行った。

一人フロアに残り、一部ずつ閉じていく那々香。

大村課長を差し置いて、本社に残った人。

その言葉が、那々香の胸を突き刺した。


あの日亮介は、奥さんを送って会社に戻った後、社長である父に呼ばれた。

那々香は、みんなに気づかれないように、社長室の廊下の角で待っていた。
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