恋人は社長令嬢
「うるさいわよ、二人とも。」

腕を組んで、二人の前に立ったのは、同じ部署のもう一人の同期、松森那々香(マツモリ ナナカ)26歳。

「松森、聞いてくれよ。至(イタル)のヤツ、勝手に自販機のボタン、押すんだぜ。」

「うっそ!!」

「瞬が、どれにしようか迷ってたから、決めてやったんだよ。」

「…至(イタル)らしいって言えば、至(イタル)らしいけど。で?瞬は、何を買おうとしたの?」

「コーヒー。」

「コーヒーなんてどれでも一緒でしょ!ウダウダ言わないの!」

「なんだ、それ!」

那々香は、しゃべってるうちに、コーヒーを買っている。


「ちっ!おまえらに、俺の気持ちが分かってたまるか。」

瞬は、至から渡された缶コーヒーの、蓋を開けた。

「そうだ。俺、コーヒー買いに来たんじゃないだ。」

至が何かを、思い出したかのように言った。

「瞬、今夜空いてるか?」

「あ?ああ。」

「久し振りに、飲みにいこうぜ。」

「うん。」

「那々香も行こうぜ。」

「私はパス。」

那々香は即答だった。

「こちらは二人とは違って、予定が入ってるの。」

「何の予定だよ。」

疑いの目で見る瞬。

「デート。」

「デート???」

「せいぜい、男同士の夜を楽しむのね。」

那々香は手を振りながら、楽しそうに去って行った。
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