お見合い夫婦の結婚事情~カタブツ副社長に独占欲全開で所望されています~
 それが恋愛経験についてだということに気がついて真帆は頬を膨らませる。

「…そうですよ、いけませんか?」

 勝ち負けではないと分かっていてもしゃくだという気持ちは抑えられない。そんな真帆を蓮はその茶色い瞳を愉快そうに細めて見ている。

「馬鹿にしたわけじゃないよ、かわいいなと思っただけだ。病院での話から想像するに、学生時代はいろいろと大変で、恋愛どころではなかったというところだろう?」

 その通りだった。
 もちろん真帆にだって高校生の頃には、淡い恋の思い出くらいはある。けれどそれも卒業とともに消えた。
 短い大学生活は、両親が何とか捻出してくれた学費を無駄にすまいと、勉強に熱中しているうちにあっけなく終わってしまった。
 
「次からは俺も気をつけるよ」

 またくっくと笑う蓮を真帆は睨む。
"かわいい"なんてまるで子どもに言うみたいだ。
 聞き捨てならない。

「副社長…、馬鹿にしてますね」

「してないって!」

 とうとう蓮が声をあげて笑い出す。そして真帆の頭を大きな手でくしゃくしゃと撫でた。

「そういう飾らない率直なところに俺はやられたんだ。…そのままでいいよ」

 そんな風に無防備に笑う蓮を見るのは初めてで珍しいと思っているうちに、ついつられて真帆も笑い出してしまう。
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