アラサー女子は甘い言葉に騙されたい
そんな酷い相手など、早く忘れなければいけない。
いつまでも周の事で前に進めず後ろを向いて立ち止まっては居られないのだ。
吹雪はテーブルの上に置いていた蒼いマグカップを持って立ち上がった。
ここからテーブルや床に、マグカップを思いきり落としてしまったら、陶器で出来たマグカップはすぐに割れてしまうはずだ。
周を忘れるためには、彼から貰ったものを壊すのが1番だと吹雪は考えたのだ。目の前から周を思い出すものがなくなればいいのだ。
彼から初めてもらったプレゼント。
2人で「綺麗だね」と見入ったマグカップ。
それを処分してしまえば、ここで今、手を離すだけで忘れられる。
吹雪は目を閉じて、手に力を入れた。
けれど、寸前の所でマグカップから指が離れる事はなかった。
「………壊せるはずないよ…………周くんの事、忘れられないよ………」
吹雪はマグカップを胸に抱き寄せ、しっかりと守りながら、涙を流してその一人呟いた。
吹雪は自分では気づいてはいないぐらいに、周の事が忘れられず、そして好きになっていたのだった。