アラサー女子は甘い言葉に騙されたい




 「なになにー?今の人、彼氏ー?それとも、ナンパ?」


 隣りのカウンターで一部始終を見ていた同僚がわ、ローラー付き椅子を滑らせて吹雪の近くにやってきた。


 「えっ!ち、違いますよ。友人ですよー!」
 「えー、本当かなぁ?そんな雰囲気に見えなかったけど」
 「本当ですよ!ほら、お客さんいらしてますよ」

 吹雪は誤魔化しながら、周が置いて行った封筒をポケットにしまった。

 すぐに彼からの封筒を確認する事も出来ず、吹雪はドキドキした気持ちのまま午前中の仕事を終わらせたのだった。



 昼休みになってすぐ、吹雪は休憩所で、ポケットから周の封筒を取り出した。
 彼からの手紙だろうか。どんな事が書いてあるのか、ドキドキし、そして、少し不安を持ちながらその中身を取り出した。


 「…………お店の名刺?」


 そこに入っていたのは、とあるカフェの名刺が入っていた。隣町にあるカフェのようだった。吹雪は不思議に思い、裏返す。
 すると、そこには手書きで。『○月×日 11時』とだけ書かれていた。その日付は調度1週間後だった。その日は、月に1度の決まった休館日だった。


 きっとここに来て欲しいという事なのだろう。吹雪は、ジッとその名刺を見つめていた。

 何で今更、という気持ちはほとんど出てこず、「会えなかった時間、彼は少しでも自分の事を考えてくれていたのかもしれない」と思えると、とても幸せだった。


 ここに行けば、きっと吹雪の知らない彼がわかるはずだ。
 けれどそれは自分が傷つく瞬間かもしれない。


 そうわかっていても、吹雪の「周に会いたい」という気持ちは抑えられないものになっていた。

 周に会いに行こう。 
 吹雪にはもう迷いはなかった。





 
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