アラサー女子は甘い言葉に騙されたい



 周はそういうと、吹雪から手を離してしまった。それが寂しくて、思わず声が出てしまったのを吹雪は何とか誤魔化した。体も離れていってしまう。恥ずかしいのに、彼に触れてほしかったなど、言えるはずもなく、熱を感じなくなった背中が妙に冷たく感じてしまった。


 「失敗してもいいから、ね」
 「うん………わかった」


 吹雪は、先ほど彼がやった事を思い出しながら、ボタンを操作する。けれど、なかなかむずかしく思った通りに操作出来ない。
 ぬいぐるみの少し上の部分にクレーンが降りてしまい、吹雪は失敗してしまったと思った。が、クレーンが上に上がると、なんとぬいぐるみについていたチェーンの部分がクレーンに引っ掛かっており、見事取ることが出来たのだ。


 「あ、周くん、取れた!取れたよ!?」
 「うん。すごいね、吹雪さんっ!」


 吹雪は興奮してしまい、周の方を向きながら大きな声で喜んでしまう。すると、周は優しく微笑んで一緒に喜んでくれる。
 落ちてきた景品を周が取り、ジッと見つめた。


 「これ、俺が貰ってもいい?」
 「え、うん。もちろんだよ?」
 「やった!吹雪さんからのプレゼントだ。大切にするね」


 周のお金で吹雪が取った、大量生産されているぬいぐるみ。そして、景品もぬいぐるみで、男の人が喜ぶものではないはずだ。
 それなのに、周はとても大切そうにぬいぐるみをもって微笑んでくれる。

 その笑みを見て、吹雪は改めて「周くんが好きだな」と心の中でそっと呟いた。




 
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