アラサー女子は甘い言葉に騙されたい
「光弥さん………ごめんなさい。私は、そういう関係にはなれません」
紳士的でかっこいいと思っていた顔を見ることも出来ず、うつ向いたままそう伝えると、吹雪はその場から立ち去ろうとした。
「吹雪ちゃん、ちょっと待って!」
「ごめんなさい………私、そういうのは苦手で………」
立ち去ろうとした吹雪の手首を光弥に掴まれ、咄嗟に体を強く引いた。けれど、相手は男の人。敵うわけもなく、吹雪は彼の顔を見た。
すると、光弥は先ほどと変わらず微笑んでいる。こんな場面で笑っていられるのは何故なのか。吹雪は怖いと思ってしまった。
「離してください」
「あのさ、ここのディナーそんなに安くないんだ。お金、全然足りないよ?」
「っっ!!」
顔が沸騰しそうに熱くなるとはこういう事を言うのだろう。吹雪は顔を真っ赤にし、涙を浮かべながらキッと光弥を睨むと、財布からもう1枚万札を取り出して、彼の手に強く押した。何も罪のないお札がぐしゃりと丸まってしまう。お札に描かれている顔が潰れるのを、涙を堪えながら見つめ、吹雪は周りの客や店員が何事かと見ている中、足場やにレストランから去ったのだった。