アラサー女子は甘い言葉に騙されたい
「はぁー…………男の人の考えてることはわからないなー」
吹雪は、一人大きな独り言を残して空を見上げた。どこからともなく聞こえてくる、女子高生の笑い声。そこに今、自分は混ざっていないのだ。焦る気持ちなどわいては来なかった。
独りはなんて楽なのだろう。
そう思ってしまった。
腕時計を見ると、そろそろ昼休みが終わる時間になっていた。
次は移動教室での授業だったので、早めに片付けて、吹雪は教室に向かう事にした。近道の旧校舎の廊下を通って帰ろうとした時だった。
旧校舎はほとんど使われていない空き教室が多い。そのため、昼休みにその場所で食事をする生徒も多かった。
ある部屋の前を吹雪が通りかかった時に、中から話し声が聞こえてきたが、ここでも食べている人がいるんだ、と思っただけだった。
自分の名前が聞こえてくるまでは。
「そういえば、星って明日見吹雪と付き合ってるだろ?どうなんだよ」
「…………ぇ………」
静かな旧校舎だからか、男子生徒の声が廊下にまで聞こえてきていた。吹雪は驚きながらも足を止めてしまう。それと同時に嬉しさを感じた。
星は友達には話さないと言っていたけれど、仲のいい友人には話していたのだろう。そう思った吹雪は嬉しくて頬が緩んでしまう。
けれど、それもその一時だけだった。