恋に負けるとき



天気がよくて




ジリジリ




うだるような暑さの中




汗を流す声が聞こえる




熱気が伝わってきそうな




体育館の横で




あの子が




友達と話していたんだ。




田所さんと友だちのさきちゃんは




日傘さして、花壇に水やりをしていた。




時折




誰かを探すように、




体育館に目をやる田所さんに、




手伝っていたさきちゃんが




「唯、さっきから



誰か探してるの?




もしかして好きなひと?」




「そんなんじゃないよ!」



焦って答える田所さん。




「…でもちょっと憧れるひとかな。」




「え、どんなひと?イケメン?」




さきちゃんが盛り上がって




キョロキョロ探し出す。





「うううん。顔はわかんないの。



何年生かも



私、視力悪いから。 




でもね、4月からここで花のお世話してるから」




「ああ、園芸委員だもんね、




唯。真面目にしてるんだ。




まさか毎日?」




「うん」




「さすが、唯」



「そりゃするよー。



お花、枯れちゃうもん」




「それで、それで?」




さきちゃんが先を促す。




「えっと、それでね。



視界の隅にこう」




田所さんが、手で横切る線のようなジェスチャーを




してみせる。




「バレー部のひとが練習しているのが、




あのドアから少し見えるんだけど。」




暑さ対策で開け放たれている体育館のドアから




ジャンプトレーニング中の姿が



垣間見える。




「すごいひとがいて。




その時は、赤いジャージだったと思うんだけど…




跳んでるのが見えて




そのひと、ほんとにすごいの。



誰よりも高く跳ぶの。



私と同じ人間なのかなって思うくらい。




高くて




空中でちょっと止まってない?




っていうくらい、高くて




ほんと、びっくりして




めが離せなくなって





いつも、見ほれちゃうくらいで。」



夢中で話す田所さん



声に憧れが滲んでいる。




「でも、最近見かけないから…。




どうかしたのかなって思って」




「違うジャージ着てて



見分けつかないんじゃない?」



さきちゃんが言うと




「うーん。




あの人だったら




私、わかると思う」



トス練しだしたバレー部を見つめながら



田所さんが言い切る。




「あーそうなのー?



じゃあ、もしかしたら辞めたのかもよ?



ほら、うちのバレー部強豪だから。



ついてけなくて、辞めちゃうひと



少なくないみたいだし」




「うーん…。」




田所さんは少し考えたあと、言ったんだ。




「バレー部の練習って、すごい




ハードみたいで。



確かに、大変そうだったけど



あのひとは…




いっつも、いっつも



だれよりも



練習してて。




きついと思うのに




すごく、楽しそうだったんだよね。




きっと




バレーが、すごくすごく





好きなんだなって。




思って。




だから、




きっと、




今は、お休みしているだけなのかも!」




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