恋に負けるとき




気まずい空気の中。



田所さんに視線をやる。



田所さん…唇をかみしめている。




なんで、こんな上手くいかないんだよ。



こんな時だけ



田所さんの瞳は饒舌なんだな。




何て声かければいいのか




わかんねーよ。




重い口を開く。



「何で、



田所さんが怒るの」




おれは行儀悪く立てた膝に



頭のっけて



うつむいてしまう。



「怒ってなんか」



そう言いかける田所さんに




「…けど?」



やけになって、おれは先を促す。



「ただ、ちょっと、びっくりして。




渋谷くん。




いつも優しいのに…




チカちゃん、ビックリして




ショックだったかなって。」




他の子に優しくしろって?




おれはただ、田所さんに



誤解されたくなかっただけだよ。




これ以上タラシだと思われたくないし。



チカに田所さんのこと




あんな風に言わせたくなかっただけ。




平行線のように交われないのは




おれは、田所さんの気持ちしか考えていなくて




田所さんは




自分以外のひとの気持ちしか考えていないから。






「おれ、優しくなんかないよ。」



田所さんだからだよ。




他の子なんてどうでもいい。




それじゃだめ?



知ってのとおり、今までいい加減だったし、




チカにも八つ当たりしたようなもんだよな。




自分のことばっかで、




「ダメ()だよ。」



自己嫌悪で、



言ってしまう。





「渋谷くんは優しいひとだよ。




明るくて、みんなから人気があって



かっこいいって。」




俺を取りなそうとする




優しい田所さん。




「そんなことないじゃん。」



「え?」



「だって、田所さんはそう思わないんだろ」



みんなって



いつも自分以外のひとの意見じゃん。



「えっ?」




「そんなことないよ。




…かっこいいよ?」





「田所さんのそれって



人として的な?



男としてじゃないよね」



「えっ。



男ととしてって…




どう違うの?」




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