恋に負けるとき

恋に落ちるまえの巻




初めて




田所さんを見たとき、っていうか。




初めて




田所さんの存在に気づいたのは




一年の時。




ある日の放課後。




俺はそのとき、




付き合っていた彼女を




廊下で待っていた。




ガラ。




彼女が半分扉を開けたまま、




教室の中に向かって




「ありがとー。ほんと助かる。




じゃあ、お願いね、田所さん」




そう言った。




そして、




「お待たせ。トオル。




どこ行く?」






そう言いながら




嬉しそうに俺の方へ来る。




その頃の俺は、試合で腕を痛めて、




しばらくバレーができなくなったばかりで




ちょっとクサってた。




今より多分ちょっとだけ、




ガラ悪くて、




とにかく、機嫌が悪かった。




「は?」




「お前なに、人に押し付けてんの。」




イラついたように彼女に言った。




「なに、別に押し付けてなんてないし。



代わりにやってくれるって




言うんだから、いいじゃん。」




彼女もめんくらったような顔して

 


いい返す。




多分おれがケガしたことで、


 

遊べる時間が増えて、




嬉しそうな彼女に、




腹が立っていたんだと思う。




もめそうになっている俺らに。




掃除押し付けられた子が




わざわざ急いで、廊下に出てきて




「大丈夫、大丈夫。




ほんと代わっただけだから。




私、何も用事ないし。



三宅さん(そん時の彼女)も、




待たせたくなかったんだよ。




彼氏(あなた)を!




…なので、ケンカしなくて大丈夫!」




そう、他人事なのに必死でとりなそうと




俺と彼女の間を




ほうきを抱えたまま、ウロウロしていた。




正直そん時は、この子



こんなお人よしで




いいように人から




利用されちゃうんじゃねえの。




そんな風に思っただけだった。





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