クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
 夏久さんがいることも忘れて駆け寄ってしまった。
 名前を呼ばれた“ちよしくん”が――尻尾を振ってくれる。
 そうなると隣にいた飼い主も気付く。今にも飛びつきそうなちよしくんを抑えながら、私に向かって笑いかけてきた。

「ユキちゃん。こんにちは」
「こんにちは。今日はいつもよりお散歩が早いんですね」
「夕方から雨が降るって聞いたものだから。今のうちに、ちよしを遊ばせておこうと思って」

 私の父と同じか、それより少し年下に見えるこの初老の女性の名前は知らない。なんとなく“ちよしくんのお母さん”と呼んでいる。

「夏久さん。ちよしくんと、そのお母さんです。よく会うので仲良くなったんですよ」

 ざっくり紹介すると、夏久さんは納得したように頷いた。
 そして、ちよしくんのお母さんに向かって軽く頭を下げる。

「いつも妻がお世話になっているようで」
「あら、ユキちゃんの旦那様? 初めまして」

 二人が挨拶している間に、私ははしゃいでいるちよしくんを撫でさせてもらっていた。
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