クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「花を見たかったんじゃないのか?」
「えっ?」
「いや、君のことだからもっと喜ぶのかと思ってた。感動しすぎておとなしくなってる……わけじゃないよな。疲れたのか?」

(……あなたのことを考えていたんです)

 私自身、どうしてこちらの道に来たかったのかすっかり忘れてしまっていた。
 階段の上から見えた花の道は、今の方が近い距離にあるのに遠く感じられる。あんなにきれいに見えた花々も、階段を降りる前の方が色鮮やかに見えた。

(夏久さんと一緒じゃなきゃ来られなかった。でも、夏久さんと一緒だったらこの道を通る理由がない……)

 私が花の道を通りたかったのは、ずっとひとりで散歩をしていたからだった。連日同じ道を歩いていれば、やがて景色に飽きてしまう。
 だから刺激になる光景を求めて、きれいな花を眺めながら歩きたかったというのに、あくまでそれはひとりでいるときの感覚でしかなかったことを思い知る。
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