クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
 握ってくれる手は頼もしくて、手すりよりよほど信用できた。
 どんな転び方をしても夏久さんは支えてくれただろうし、もしものことがあったら身体を張って守ってくれたに違いない。
 でも私は、握り返す手に自分の想いを乗せてしまっていた。
 これが私を守るためだけの手ではなく、繋ぎたいから繋ぐという気持ちを抱いた手だったらと思わずにはいられなくて。

「もうこんな階段はないだろうな」
「この先を歩いたことがないのでわかりませんが、たぶん」

 ふう、と夏久さんが疲れたように息を吐いた。
 そしてまた、ふたり並んで歩き始める。

(隣にいるのに手を繋げない。夫婦なのに)

 一度ぬくもりを与えられたせいなのか、頭の中がそれでいっぱいになっていた。繋がなくてもいいから触れるだけでもとすら思ってしまう。
 そんなことばかり意識していたからだろうか。
 夏久さんが不思議そうに私を見下ろしてくる。
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