クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
夜になると遊園地の雰囲気は一気に変わった。
昼間が家族連れや子供のためのものだとしたら、夜は恋人たちのものだ。
しっとりした音楽ときらびやかなイルミネーション。明るいうちに去った子供たちの代わりに、恋人たちの姿がちらほら目立ち始める。
「そろそろ観覧車かな。いい時間だろうし」
「はい」
ふたりの会話はおおむね和やかに続いていた。
笑う回数こそ少なかったけれど、冷たい言葉に傷付くようなことは一度もない。
(ちゃんとデートをしてる気がする)
そんな時間もあと少しで終わってしまう。
このまま永遠にこうしていられたらいいと思いながら、昼間よりも混雑している観覧車へ向かった。
一時間よりは短い時間を並び、ようやく観覧車に乗り込む。
コーヒーカップのときと同じく、向き合って座った。
観覧車の中となれば当然密室である。
景色の方に集中してほしいからなのか、音楽は流れていなかった。
ゆっくり上空へと引き上げられていくのがわかる。
少しずつ地上が遠ざかっていった。
「昼に来たとき、ちょっと思ったことがある。……もしかして夜景を見るのは初めてか?」
夏久さんから話しかけられて反応が遅れる。
なんらかの提案ならともかく、雑談の起点と考えれば、今日初めてかもしれない。