クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
 この時間に、この空気に――熱を帯びたキスに。目眩がするほどの衝動を、再び受け入れてもらおうとする。
 シーツの上で指を絡めて手を握る。たったそれだけの触れ合いですら、どうしようもなく身体の芯が熱くなった。
 足りない――という思いを今は隠さない。

「脱がしても?」
「……お願い、します」

 こういう時間に慣れていない答えだと、震える声が響いてから気付いた。
 肌をあばいていく指の感触を苦しいほど意識する。
 もうすぐ、もっと深い場所まで触れられる。

 “運命を感じた夜”なんて言えば聞こえはいい。けれど“一夜のあやまち”と呼ぶことだってできる。
 この関係を進めたくないなら、ここでやめておけばよかった。
 奇跡もあやまちも、なにも起きないまま、またいつも通りの明日を迎えられる。心を惹かれただけの相手として、よい思い出にできただろう。
 けれど、思い出で終えるつもりは自分にも相手にもないようだった。

 ――こんな火遊びのような夜には嫌悪を感じていたはずだ。出会ってすぐに身体の関係を進めてしまうなんて、本能のままにしか動かない獣と同じではないか。
 それなのに、今はそうしてきたすべての人々の気持ちがわかってしまう。
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