クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
 触れたい。
 触れられたい。
 熱い吐息が落ちて、また視線が絡み合った。

雪乃(ゆきの)さん」
「はい。ええと……なにかおかしかったですか?」
「え?」
「こういうの、慣れていないので……。ごめんなさい、もう二十七歳になるのに」
「別に恥ずかしいことじゃないだろ。俺だって、三十二歳にもなって高校生かってくらい緊張してる」

 五歳も差があったのか、とぼんやり思う。
 同年代だと思っていたわけではないけれど、そこまで離れているとも思っていなかった。

「……おかしかったら遠慮なく言ってくださいね。私、頑張りますから……」
「いいよ。頑張らなくて。今夜、君のために頑張るべきなのは俺の方だ」
「じゃあ、どうして今、名前を……?」
「……君に呼んでもらいたいな、と思って」

 一拍置いて、ほぼ同時に笑い声が重なった。余韻を残して消える前に、赤くなった頬が視界に入る。

「私の名前もたくさん呼んでくれるなら」
「……わかった」

 しばらく沈黙が下りた。

「……夏久(なつひさ)さん」

 その囁きは、待ちきれずに落ちたキスの間に溶けてしまう。
 隙間なく触れていたい気持ちを、きつく抱き合うことで満たそうとした。
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