クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「……君も引っ越しで疲れただろ。俺は部屋にいるから」
「待ってください」

 一方的に会話を切ると、夏久さんは自分の部屋へ向かってしまった。
 取り残され、再びソファに腰を下ろす。

(夏久さんは私を誤解してる。妊娠を盾に結婚を迫ったって。だけど、どうしてそんなことをしなくちゃいけないのかわからない。一条の名前が関係してる……?)

 携帯電話を取り出し“一条夏久”で検索をかけてみる。
 私の名前で検索をかけても、姓名判断の結果くらいしか出ないというのに、夏久さんは違っていた。

 大手IT企業の社長として、いくつかネットニュースの記事にまでなっている。載っている写真は夏久さん本人だから、同姓同名の他人ではありえない。
 記事のひとつを読んでみれば、資産家である一条家のひとり息子だという話があった。その下に続く下世話な文章には「現在恋人の影はなし。どのような女性がこの御曹司を射止めるのか、今後も目が離せない」とある。
 読んだだけで疲れてしまい、携帯電話をテーブルに置いてソファにもたれる。

(つまり夏久さんは超お金持ちってこと。それならあんなふうに誤解するのもわかる気がする。お金目当てで結婚を迫ったって思われても仕方ないし……)

 もちろん私にそんな意図は一切ないけれど、夏久さんから見ればそうなるのもわからなくはない。
 そして、その誤解のせいで優しい表情を見せてくれなくなった。
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