クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
(夏久さんならいいって思ったの)

 高い天井を見上げ、息を吐く。

(初めて夜を過ごす相手も、結婚する相手も……)

 締め付けられた胸が痛みを訴える。
 恋というものがどういうものなのかは知らない。でも私はきっと、夏久さんに恋をした。だからなにもかも許して、受け入れたいと思った。
 好き――と伝えたところで、今の夏久さんが信じてくれるとは思えない。むしろ、お金のために心まで売り渡したように受け取られる可能性がある。

(結婚はしちゃったんだから、これからどうするかを考えないと)

 夏久さんは離婚について述べなかった。だとしたら、少なくとも子供が生まれるまではこの生活が続くことになる。

(誤解を解かなきゃ。それから……好きって伝えたときに、信じてもらえるように頑張る)

 妻だと思いたくないとは言っても、夏久さんは自分の子供の母親として私を労わってくれている。 その優しさはあの夜に見せてくれたものと変わらない。
 だとしたら、過ごしていく中で心を通じ合わせることができるかもしれない。

(夏久さんは自分に責任があるって言うけど、私だって問題があるわけだし。好きだと思ってもらえなくても、せめて妻としては認められるようになりたい)

 目を閉じてお腹に手を当てる。
 まだそこに夏久さんとの子供がいるなんて、やはり実感がない。

(パパとママがケンカしてばっかりだったら、あなたも嫌だよね)

 返事は当然なかったけれど、私の中で微かな鼓動が聞こえたような気がした。
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