クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
 父はいつだって“夏久”を自分の都合のいいように動かそうとする。母はそれをおかしいとも思わず、むしろ積極的に支持している。
 それが一条の家に生まれた息子として、最も正しいことだからだ。

 父は母のことも同じようにうまく使う。男同士ではこじれる話も、母が間に入ると強く出られず飲まざるを得なくなってしまう。
 今回も同じだろう。以前、話を終わらせたのが気に入らず、こうして母を介してもう一度考え直せ――否、自分の言うとおりにしろと伝えてきている。

(きっちり俺の方で終わらせるべきだった)

 両親はおそらく悪人とされる人間ではない。親として善人かはともかくとして。

「……俺から向こうに伝えておく。もともと乗り気じゃなかったしな」
『またそんな勝手なことを言って……』

(だから、もうこの話は終わったはずなんだ。それを認めずにいるのはそっちじゃないのか)

 そう言えたら楽だったのに、まだ心が期待している。
 彼らが“跡取り息子”ではなく“俺”を求め――愛してくれることを。
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