クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
(……愛されたいと思っても、他人が愛してくれるのはいつも“俺”じゃない)

 彼女ならという願いは早々に打ち砕かれた。
 やはり、誰かに期待などするべきではなかったのだ。

 椅子の背もたれに体重をかけ、ぼんやりと天井を見上げる。
 昔ならもっと、関係を少しでもいいものにしようと頑張ったかもしれない。
 それが無駄だと悟ってしまったのは、そう過去の話ではなかった。

 不意に携帯電話が震える。
 次いで、無機質な着信音が流れた。
 ――一番嫌いなメロディだった。

「……もしもし」
『夏久、この間の件だけど』

 聞こえた声は――母のもの。

(その話は終わったんじゃなかったのか)

「それについて、父さんと話がついてる」
『……そうなの? その“父さん”から電話するように言われたんだけど』

 電話の向こうに聞こえないよう、溜息を吐く。
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