クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい

 病院からの帰り道、いつもはタクシーなのに今日は歩きだった。
 さっそく夏久さんは先生の言ったことを実践するつもりらしい。
 私としてもありがたい話だった。
 駅までの道のりは遠くない。しかもちょうどいいお散歩日和である。

「今日もついてきてくれてありがとうございました」
「子供の父親として当然のことだろ」
「だけど、忙しいのに」
「それはそれ、これはこれだ」

 夏久さんは休日に仕事を持ち帰ってくることが多い。
 基本的に家にいるときは自室にこもってしまうから、なにをしているかまでは知らなかったけれど。社長なのだから忙しくないはずがないのだ。
 といっても、私が夏久さんの社長らしい姿を見たことは一度もない。名前を検索したときに出てきた写真ぐらいだろうか。

(仕事をしているところも見てみたいけど)

 初めて会ったときに着崩していたけれど、あれは家にいるときも変わらなかった。それなのに、だらしなく見えないのは不思議である。
 それどころか、私の目にはますます魅力的に映るくらいだった。
 そんな夏久さんがびしっとスーツを決めた姿はきっと素敵だろう。
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