【完】ボクと風俗嬢と琴の音
9.晴人「誠実さとは誠の自分をいつも苦しめる」




9.晴人「誠実さとは誠の自分をいつも苦しめる」







10月終わり。
グッと寒くなって、冬が近づいてきたのを知らせる。



クローゼットの奥にしまい込んでいたクリーニングに出しっぱなしにしていたコート。
これの出番もそろそろか。
それでも東京の冬は暖かくて、けれど冷たい。



北海道出身の俺にとって
東京の冬は寒いというより冷たい。
同じ道民なら理解してくれるだろうか。



雪が降るから寒いでしょーとよく言われるけど
雪が降っている冬の日は案外寒くない。
かまくらなんて文化があるくらいだから
雪の降らない空が真っ暗に沈んでいく夜の方がずっと寒かったりする。



雪の降らない冬。
何度繰り返しても
雪の降る、あの紫がかった空気の色を思い出して寂しくなる。



「北海道って憧れです」


目の前の山岡さんは目をキラキラと輝かせてそう言った。
瞬きするたびに、長い睫毛が揺れる。
少し茶色い髪の毛は緩くウェーブがかかっていて、毛先まで艶々している。

彼女とは、月に何回か食事を行くようになっていた。
特に進展はナシ。
琴子が選んでくれた山岡さんが好きそうな店だったり、彼女が行きたいという店だったり



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