【完】ボクと風俗嬢と琴の音
3.晴人「夜の顔を持つ人よ」





3.晴人「夜の顔を持つ人よ」







ゲロ臭い夜。
正にそんな夜だった…。


ゲロ臭くて、月が綺麗で、シェイクスピアの戯曲を思い出した夜。


きれいは汚い、汚いはきれい。
誰かにとっては汚く見えるものも、誰かにとってはきれいに見える。
価値の相対性の意味。
正反対に見える事柄が実は近しくある事。




時刻は23時を回っている。
こんな時間に洗濯機を回したら、隣の住人から苦情が来るかもしれない。



ゲロまみれになったティーシャツを取り合えず、手洗い。
明日の朝、洗濯機を回せば良い。



’こんな時間に何やってんだか……’
そう思いながらリビングへ行くと、そこにはパチリと目を開けた琴子が寝転がっていて



その目の前に琴音が足を揃えてちょこんと座っている。




(不味い)



先ほどの事があって、琴音が俺以外の人間が嫌いで怖いという事を知った。
実際ゲロを吐いてその場で意識を失った彼女を家へ連れてきた時も
琴音は知らない人を抱きかかえる俺の足の周りをウロウロして
そして俺が洗面所に行ったら、テレビ台の後ろから動かない琴子をジーっと見つめていた。



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