極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
 するとフロアの異変に気付いた三十代の男がこちらにやってきた。

「どうかされましたか?」

 この店の店長だと名乗った男に、アランは冷ややかな視線を向ける。

「この店に来る客は人の悪口を聞かされて楽しめる悪趣味な奴ばっかりなのか? そうじゃないなら、もうちょっとまともなスタッフを雇った方がいいと思うぞ」

 店長は押し黙った文香とホールスタッフの女性を見て、状況を悟ったようにため息をついた。

「加藤さん、また白石さんのことを悪く言っていたのか。少しは彼女を見習って真面目に働いてくれよ。お前のせいでもし白石さんがこの店をやめたらどうするつもりだ」

 店長は加藤という女性を責めながら、文香には甘ったるい視線を向けていた。
 そして「大変失礼いたしました」とこちらに頭を下げて戻っていく。
 
 その様子を見て俺とアランは顔を見合わせる。

「この店の雰囲気が悪いのって、あの男のせいじゃない?」
「……俺もそう思った」

 うなずいて、眉をひそめた。
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