極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
 母子ふたりだと文香は未来ちゃんの写真を撮るだけで、ふたりで一緒に撮る機会は少なくなってしまうのだろう。

「それに、パパのしゃしんもないんだよ」
「パパの写真がないって、一枚も?」
「うん。みらい、パパのお顔いちども見たことないの」

 前からこの部屋には未来ちゃんの父親の写真が飾られていないとは思っていたけれど、未来ちゃんは父親の顔を見たこともないなんて。

 どうしてだろう。と不思議に思う。
 彼のことを思い出すのがつらいほど、今でも文香は亡くなった未来ちゃんの父親を愛しているということだろうか。

「だけどひとつだけ、パパのものがあるんだよ。ママはね、たなのいちばん下に、パパからもらったゆびわをかくしてるの」
「指輪?」
「そう。えほんの中でおうじさまがおひめさまにプレゼントしたみたいな、キラキラしたすてきなゆびわ。ときどきママがこっそりだして、たいせつそうに見てるの知ってるんだ」

 絵本に出てくるような指輪ということは、エンゲージリングだろう。

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