極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
 彼女は同僚の加藤さんと一緒になって私の悪口を言っていた。
 そのことを思い出し、笑顔がこわばる。
 
 けれど興味深げに店内を見回す彼女から仕事中のような悪意は感じられなくて、気を取り直し席に案内した。

「お久しぶりです、篠田さん。今日は偶然こちらにこられたんですか?」
「ううん。白石さんがここで働いているって聞いたから、興味があって。大学行く前にちょっと寄ってみたんだけど、お茶だけでも大丈夫ですか?」
「もちろんです。普通のカフェメニューや体にいい薬膳ドリンクなんかも揃ってるんで、ぜひ」

 篠田さんは私が手渡したメニューを開きながら、「お茶だけでもたくさん種類があるんですね」と驚く。

「すごく雰囲気がよくて働きやすそうなお店ですね。うらやましい」
「私、急にお店をやめてしまってすみません。もともと人手が足りなかったのに、きっと大変でしたよね」
「ううん、大丈夫。私ももう辞めたから」
「え、篠田さんも辞めたんですか?」

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