極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
「あの男が文香に好意を持っているってわかっていたんだから、もっとちゃんと気にかけるべきだった。たまたま約束より早く来て間に合ったからよかったけど、もしあの場に俺がいなかったらと考えるだけでぞっとする」

 その言葉は本心だろう。彼の膝に置かれた手はきつく握られていた。

「でも、結貴は助けてくれた。本当にありがとう」
「文香」

 結貴は私の名前を呼ぶと、こちらに体を向けた。
 
 私の目の前に小さな箱が差し出される。
 そして長い指が箱を開いた。
 中には美しいダイヤの指輪。
 
 店長に奪われそうになったものだ。

「これは、俺が贈ったものだろう?」

 そう問われ、言葉に詰まった。

「五年前、プロポーズを断られた俺は、この指輪は捨ててくれと頼んで置いていった。とっくに処分されていると思ってた。だけど文香は、ずっと大切に持ってくれていたんだな」
「……っ」
「未来ちゃんは、これはパパがママにプレゼントしたものだと言っていた」

< 172 / 197 >

この作品をシェア

pagetop