極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
 結貴は振り絞るように言いながら、私の体をかき抱いた。
 そのかすれた声からも力強い腕からも伝わる鼓動からも、切ないほどの愛を感じて涙がこみあげてくる。

「ずっと騙していてごめんなさい。怒ってる……?」

 恐る恐る尋ねると、「バカ」と短く言って私の髪を乱暴になでた。

「怒るわけないだろ。俺が今どれだけうれしいかかわかる? 世界中の人に聞こえるように叫びたい気分だよ」

 いつも穏やかな結貴らしくない言葉に私は目を丸くする。
 その瞬間、ちゅっと唇が触れた。

 病院の廊下でキスなんて、とさらに目を丸くすると、結貴は私を抱きしめていた腕をゆるめた。

「でも。どうして五年前、あんな嘘をついて俺から離れたんだ?」
「それは……」

 当然このことをたずねられるだろうと覚悟していた。

 ちゃんと説明しなきゃ。

 深呼吸をして、前を向く。
 そして口を開きかけたそのとき、バタバタと近づいてくる靴音が聞こえた。
 
 なにげなく振り返って、肩がこわばった。
 
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