極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
 私は不思議に思って顔を上げる。
 結貴は真剣な表情でこちらを見ていた。

「俺は今でも文香が好きだ」

 そう言われ、信じられなくて目を見開く。

「私を好きって……。結貴は結婚していないの?」
「してないよ」

 結貴は落ち着いた声ではっきりと否定した。

 私と別れてから五年。
 葉山製薬の副社長になった結貴は、結婚していてもおかしくないと思っていた。

 だって、彼のお母様は葉山家の後継者である結貴にふさわしい身分と教養のある妻を望んでいたのに。

「文香と別れてからは誰とも付き合わなかったし、何度も見合いの話があったけど全て断ってきた」
「どうして……」
「ずっと、文香を忘れられなかったから」

 まっすぐに見つめられ、胸に熱いものが込み上げてきた。
 
 どうしてそんなに一途に私を好きだと言ってくれるの?
 私はほかに好きな人がいると嘘をついてあなたを傷つけたのに。
 別れてからもう五年もたっているのに。そして私には、子供がいるのに。
 
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