箱入り娘ですが、契約恋愛はじめました【最終番外編】
だけど、当の本人の私の百倍くらい母がピリピリしているのだ。

「とにかく大人しくしてなさい。悪いようにしないから」

母の言うまま、パックされること10分。保湿のクリームを手足にもこってり塗られて終了だ。顔用の高いクリーム塗ってなかった?もう突っ込まないけど。

「明日は早いんだから、さっさと寝なさいね」
「お母さんも一緒じゃない。着付けあるんだし」

母はスキンケア用品を置いてくるとキッチンに向かう。声がキッチンから聞こえてくる。

「朝ごはん、パンでいい?ゆで卵だけ作っちゃおうかしら。あと、あなたお式の最中はあまり食べられないでしょう。直前でも食べられるように、おにぎり持っていくのはどう?」
「お母さん」
「あと、持っていくものはない?バッグにまとめたんでしょう?キャリーケースにするなら出してくるわよ」
「お母さん!」

慌ただしく動き回ろうとする母を呼んだ。振り向いた母の前、カーペットに正座すると私はそのままお辞儀した。

「今日まで育ててくれてありがとうございました」

母が立ち尽くし息を飲むのがわかった。

「明日、大好きな人の元へ嫁ぎます。幸せになります」

顔をあげて、母の顔を見つめる。

「お母さん、大好き。お母さんに産んでもらえて育ててもらえて、いろはは幸せな娘でした。これから、お母さんと離れて暮らすことになるけれど」

込み上げてくる感情を押し込めて、私は告げた。

「身体に気を付けて。お仕事、無理しないで。健康診断に行って。疲れたら休んで。……長生きして」
「いろは、私をいくつのおばあさんだと思ってるの?」

苦笑いする母の瞳からはとめどなく涙が溢れていた。
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