With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
SHRの後、講堂に移動して、終業式。校長の長話にうんざりして、教室に戻り、高校初の通知表をもらい


「早いもので1学期は終了。高校生活最初の学期、お疲れさん。この夏はあんまり羽目を外されても困るが、思いっきり青春を楽しめ。じゃ、9月1日にまた元気に会おう。あ、それから野球部が甲子園まであと3勝まで来た。ウチのクラスの松本が大活躍で、俺もなんとなく鼻が高い。明後日の準々決勝はいよいよハマスタで行われる。みんなも是非応援に行ってやってくれ。以上、解散!」


なぜかテンションの高い担任の言葉に、クラスメイトたちもノリノリで答えて、HRは終了。


「絶対甲子園行けよ!」


「応援に行くからね!」


そのあと、クラスメイトに口々に励まされて、私も久保くんも笑顔で応じていたけど、松本くんの周りには、その比じゃないくらいの女子が群がるように集まって、何やらキャ-キャ-言っている。それに顔を引きつらせながら、応えている松本くんを、応対を終えた私たちは、少し離れて見つめる。


「昨日だけで4打数決勝満塁ホームランを含む2ホームランで6打点。その前の2試合は3打席3ホームラン。その上、大下さんの言う通り、お兄さんの松本哲さんやテッチャンに決して引けをとらないビジュアル。これで女の子に騒ぐなって方が無理でしょ。」


「・・・。」


久保くんの解説を聞くまでもなく、松本くんが急に女子に騒がれだした理由は私にもわかっている。昨日の試合終了後、記者の人たちに取り囲まれていたのは、松本くんとアクシデントでの急遽の登板にもめげずに、東海高を見事抑えた白鳥くん。


『明協高1年生コンビ躍動。ベスト8進出。』


今朝の朝刊の地方版には、こんな見出しが躍っていた。


「だけど、当のマッチャンはこの環境の激変に困惑しきり。ちょっと可哀想かな。」


「・・・。」


「ミッチャン、マネ-ジャ-として助け船出してあげなよ。」


「冗談じゃないよ。ただでさえ、徹フリ-クに目の敵にされてるのに、これ以上女子の敵を作りたくない。」


私はややつっけんどんに言うと、その場を離れる。


「あ、ミッチャン、待ってよ。」


久保くんが慌てて追いかけて来るけど、私は振り向きもしないで歩き出す。結局、松本くんがグラウンドに姿を見せたのは、私たちから40分程遅れてからだった。


「モテる男は辛いねぇ。」


からかうように言う久保くんに


「冗談じゃないよ。急になんなんだよ、一体・・・。」


戸惑った声を出す松本くん。だけど


「でも松本くん、満更でもなさそうだったじゃない。」


とちょっと尖った声の私。


「えっ?」


「ミッチャン・・・。」


驚いたような声を出す男子2人を振り向くことなく、私は2人に背を向ける。本当は松本くんが困っていたことくらい、ちゃんとわかっていたけど、なぜか私の心はささくれ立っていたんだ。
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