With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
私と松本くんが、佐藤くんを捕まえたのは、野球部の備品庫の裏だった。私達のすぐ近くで、彼は毎日のようにバットを振ってたことになる。意外な盲点だった。


「お二人お揃いで、俺になんか用か?」


私が声を掛けると、佐藤くんはバットを振る手を止めて、面倒臭そうにこちらを見た。


「佐藤くん、休み時間もバット振ってるなんて、本当に野球が好きなんだね。だったら、是非一緒に・・・。」


「断る。」


私の言葉を遮るように、佐藤くんは吐き捨てるように一言。


「どうして・・・?」


「お前がいるからだ。」


そう決めつけられて、呆然とする私。


「俺がこの高校に入学しようと決めたのは、登校圏内で、それなりに有力な野球部の中で、明協だけが、チャラチャラした女子マネがいなかったからだ。」


「佐藤くん・・・。」


「憧れの甲子園目指して、さぁ野球に打ち込むぞと、張り切って入部しようしたら、既にお前が居て、愕然とした。女子マネなんて、彼氏欲しさに、部員に色目使ってチヤホヤされて、いい気になってる、百害あって一利もない存在じゃねぇか。野球に真面目に取り組もうとする選手にとっちゃ、目障りでしかねぇんだよ。」


「ちょっと待て。お前、木本さんの何がわかるんだ。木本さんは本当に真面目に真摯にマネージャー業務に取り組んでくれてる。俺達選手の為に、頑張ってくれてるんだ。そんな言い方、許せねぇよ。」


あまりの言われように、言葉を失う私に代わって、そう反論してくれた松本くんに


「松本(さとし)に出来の悪い弟がいるって聞いてたけど、お前のことか。」


佐藤くんは嘲るような口調で言った。その言葉に表情を歪める松本くん。


「お前、昨日もコイツの手伝いしてたし、今もお付きの人みたいにくっついてきやがって。女子マネに顎で使われてるような選手じゃ、そりゃ、いくら兄貴のコネがあっても、御崎高校には入れてもらえねぇよな。」


(松本くん・・・。)


佐藤くんの言葉に、唇を噛みしめて俯く松本くんに、私は驚く。


「それでも、やっぱり野球がやりたくて昨日は入部しようと思って行ったけど、自分の仕事も満足に出来ない女子マネの歓心を買いたくて、お前ら1年だけじゃなくて、上級生までバタバタやってる姿に、俺は心底失望したんだ。俺はつくづく入る高校を間違えたよ。じゃあな。」


言いたいことを言って、佐藤博は去って行く。


立ち尽くす私達を残して。
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