桜が散ったら、君に99回目のキスを。
「本当はね、円依も誘おうと思ってたんだ。ひとりじゃ不安だし、円依も西高の人に助けて貰ったって言ってたから、もし同じ学年ならまた会えるんじゃないかって思って」


そういえば、私まだかこに再会したことを伝えてなかったんだ。


春は課題や新しい履修のための移動教室やらで休み時間も忙しい。


話そう話そうと思ってるうちに今日まで引き伸ばしてしまった。


「実は私、また会ったの」


「助けてくれた人?」


「そう。だから今日その人から球技大会のこと聞いて……同い歳なの。『春の向こう側』も4周読んでるって」


かこはほんとに?と食いつき気味で続ける。


「『春の向こう側』って円依がいつも言ってる小説でしょ?…そんなことあるんだ」


「私もびっくりした。そんなに有名な小説じゃないから」


キザな言葉を使えば運命というやつなのかもしれない、とも思う。


たまたま乗った車両。


たまたま出会った男の子。


たまたま目に入った大好きな小説。


全てが偶然でここまで結びついたのなら、それは必然だったのかもしれない。


「面白いの?その小説」


「うん。1度読んだら忘れられない」


私はトーンの上がった声で答える。


「ふーん、私も読んでみようかなぁ…」


かこがそう呟いた瞬間、ショートホームルームのチャイムが鳴った。


じゃあ、とふたり顔を見合わせて席に戻る。


席に着いても、高揚感が私を包んでいた。


今まで異性を好きになったことがなかったから分からなかった。


たくさんの人が存在する中で、人を好きになって、想いが結ばれることがどれほど尊いことなのか。


かこの柔らかく艶やかな笑顔がそれを物語っていた。


上手く、いくといいな。


窓の外に見える白く咲き乱れた桜に、私は願わずにはいられなかった。
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