堕とされて、愛を孕む~極上御曹司の求愛の証を身ごもりました~

「ちょ、ちょっと……!」

 私はその姿を視線で追いつつ、ビジネスマンのもとへ駆け寄った。

「あの! 今、私の目の前であなたの荷物を奪った人が! 私、追いかけて捕まえますので、すみませんが、これ預かっててもらえます!?」

 驚いたビジネスマンの瞳は、ミステリアスな薄茶色をしていた。きっちり後ろに流された髪は、美しいダークブロンド。おそらく現地の人か、近隣のヨーロッパ人だろう。

 ってことは、日本語が通じるわけもない。……でも、こういうのは心よ心!

「あー、ユアバッグ、トラレタ! アイウィルキャッチ、ハンニン! なので……マイバッグ、アズカッテテ!」

 文系大学在学中が聞いて呆れるぼろぼろの英語で言い残し、私は自分のスーツケースを彼に押しつけるように渡して駆けだした。

 黒いフードはだいぶ遠ざかってしまったものの、まだ見失ってはいない。全力で走れば追いつけるはず……!

 人波をかき分けて、ハンニンの背中だけを見つめて走る。しかしその途中、不意にこちらを振り向いた犯人が私の存在に気づき、自分を追いかけているのだと気づいて突然ダッシュをした。

< 9 / 226 >

この作品をシェア

pagetop