愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
「それがドラフト当日、突如として、方針が変わった。天の声が降って来たからだ。」


「天の声?」


「そうだ。Eの親会社が有名なIT企業なのは、君も知ってると思う。あの会社の本社内では、日本語の使用が一切禁止されてるくらいのアメリカナイズされた企業なんだが、にも関わらず、いやそれだから故と言うべきか、起業者であるトップの完全ワンマン体制だ。」


「じゃ、そのオーナーが・・・。」


「ツカを指名するように指示を出した。ツカの二刀流は必ず話題になると踏んだんだ。」


それって・・・?


「事実、マスコミはこぞって、ツカを取り上げ、またツカが3年間、仙台で暮らしていたという経歴は、地元でも好意的に受け取られた。」


「・・・。」


「そして、翌年の春季キャンプには、Eキャンプ史上最高の観客が訪れ、マスコミの取材も殺到した。ほぼ全てが「塚原効果」と言っても、差し支えないくらいだった。結果として、Eはその年のキャンプ費用をペイして有り余るくらいの収益を上げたそうだ。」


白鳥さんの言葉に、私は全く口を挟むことも出来ずに聞き入ってしまっている。


「残念ながら、ツカが一軍で活躍出来てないことで、そのフィーバーは全国的には収まってしまったが、それでも仙台を始めとした東北各地にEの二軍が転戦する時のチケットの売れ行きは、それまでとはだいぶ違うそうだ。地元マスコミも定期的に奴を取り上げ続けてる。ツカは球団に、そう意味で、今も十分貢献してるんだ。」


「でも、それって・・・。」


私が言いかけたことを引き取るように、先輩は続ける。


「Eは野球選手としてのツカの力量を評価した上で、指名したんじゃない。いや、全く期待してないわけじゃなかったろうが、要は客寄せパンダとしての『二刀流の塚原』が欲しかったんだ。」


「そんなの酷くない?」


と言ったのは、いつの間にか先輩の横に座っていた悠だった。


「最初に言った通り、球団としてのEは塚原を指名する気が、そもそもなかった。指名するにしても、下位指名で十分取れると思っていたらしいが、万一にも取り逃がすことを恐れた本社サイドの指示で3位指名になった。その理由付けに、トップの名前が出て、傷がつくのを恐れた連中が『指名は前田監督の強い要望だった』と流したんだそうだ。実際には前田さんはツカのことを、ほとんど知らなかったらしい。」


それはまさに「大人の事情」というものだった。そんな裏がありながら、キャンプ地を訪れた私達を、爽やかに迎えてくれた前田前監督の笑顔を思い出すと、私は胸が突かれる思いがする。
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