愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
7月の声を聞いても、梅雨が明ける気配はまだない。


日本に屋根付き球場が登場してから、もう30年以上経ったが、しかし基本的には、野球は屋外スポーツであり、天候には逆らえない。


この日、予定されていた試合が中止になり、俺達は室内練習場で身体を動かした。アマチュア時代は、こういう設備が、プロほど充実してなかったり、無かったりしたから、練習が軽めになったり、無くなったりしたから、俺達は雨を喜んだものだ。


とは言っても、やっぱり外のグラウンドとは違って、やれることは限られる。俺達は、投手組と野手組に別れて、時間差で、この日の練習メニューをこなした。俺は投手組の練習に参加していたけど、投手としてではなかった。


GWの「御前試合」で、由夏の前で、ナイスピッチングを披露したあと、しかしその後の2試合で、俺はいずれも結果を出せずKOされた。


「お前もわかり易い奴だなぁ。彼女が見てる時と、そうでない時はまるで、別人だ。」


小谷さんに呆れられて、そんなことはないと反論したくても、結果が結果だから、何も言えない。


「お前、いい加減、年貢を納めたらどうだ?」


「はっ?」


「今の若い奴は、こういう言葉は使わないのか?嫁さん、貰えって言ってるんだ。」


「!」


KOされて、説教されるのは覚悟していたが、まさか結婚を勧められるとは思っていなかった俺は思わず絶句する。


「相手がいないならともかく、あんな美人の彼女がいて、なにをモタモタしとるんだ?」


「・・・。」


「お前みたいな頼りない軟弱者は、ああいうしっかりした女性に支えてもらわんと一人前にはなれないんだ。」


ちょっと、俺はこれでも自分では、結構男らしいと思ってるんだけど・・・なんて反論は今はする雰囲気じゃねぇな・・・。


「プロ野球選手は大成するには、早婚に限るっていうのは、昔から言われてることだ。聡志、お前今年、25歳か?決して早婚とは言えん齢だぞ。」


いやいや。今どき25歳は十分早婚なんですが・・・。


「今から神奈川に戻って、彼女に頭を下げて、こっちに連れて来い。その方がお前の為だし、彼女だって、きっとそれを待っとるぞ。善は急げだ、俺が許可するから、はよ行け!」


そう言う小谷さんは、かなりマジで、俺はなんとかそれをなだめるのに、相当な時間を費やすことになってしまった・・・。
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