愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
そのニュースを、私は昼休みに携帯で見て、知った。聡志がピッチャーに専念することが決まったことを。


(とうとう決まったんだ・・・。)


その日の夜に、掛かって来た電話の聡志の声は弾んでいた。


「よかったね、おめでとう。」


『おぅ、もう後戻りは出来ねぇからな。とにかく突っ走るだけだからな。』


そう言って張り切る聡志に、相槌を打ち、その後もいろんなことを話した・・・はずだった。でも、電話を切ってみると、何を話したか、ほとんど覚えていない自分に気が付き、愕然とする。


大好きな恋人の通話。今の自分にとって、何よりも楽しみで、何よりも大切な時間のはずなのに、心がそこになかった自分に驚き、そして信じられない。


私はあれからずっとおかしい。本当に変なんだ、平賀さんに抱きしめられたあの時から・・・。


それは本当に予期せぬ、突然の出来事。部屋を出ようとする私を抱き寄せた平賀さん。


「疲れたよ、由夏・・・。」


初めて聡志と親族以外の男性から、名前を呼び捨てにされ、初めて聡志以外の男性に抱きしめられた。


冗談じゃないよ、なんでこんなことされてるの?これセクハラじゃん。由夏、早く振り払いなよ・・・心の中の自分がそう叱咤してるのに、なぜか痺れたように動けず、なにも言えずに抱きしめられている自分が信じられなかった。


どのくらい、そうされていたんだろう。ようやく解放された私は、やや呆然と平賀さんを見る。


もし、あのまま、平賀さんの唇が、迫って来たら、私は拒めたのだろうか?今考えても、自信がない。


だけど、平賀さんは


「すまん、どうかしてた。忘れてくれ。」


と言うと、慌てたように部屋を出て行った。そして、一人残された私は、しばらく立ち尽くしたままだった。


あれから、平賀さんの態度は普通なのに、私は、本当におかしい。気が付けば平賀さんのことを考え、平賀さんの姿を目で追っている。なぜなのか、自分でもわからない。


私の心の中にいるのは聡志だけ。それは全く疑う余地のないことのはずなのに、この胸のモヤモヤは何なの?どういう感情なの?


自分でも自分がわからなくて、でもそんな自分の胸の内を誰にも打ち明けられなくて、ただ戸惑い、悩む。


まさか、まさかだよね。だって私は浮気や不倫は大っ嫌いなんだよ。


この前


「遠恋で、隠し事し始めたら、あとは崩壊に向かってまっしぐらだよ。」


って、聡志に説教したの、自分じゃない・・・。
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