愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
監督とピッチングコーチが不在のまま、秋季キャンプが終わり、俺達は仙台に戻った。


一軍の主力、ベテランクラスは、既にシーズンオフに入っているが、中堅若手クラスもこれを機に、オフに入る選手が増える。


「これで、やっと菜摘に心おきなく会えるな。しばらく会えなくて、寂しい思いもしてただろうから、思う存分、可愛がってやらないと。」


菅沼さんは、ニヤつきながら、そう言うと


「じゃな。来季は一緒に上でやろうぜ。」


と俺の肩を叩くと、引き上げて行った。あの様子なら、順調なんだろう。俺はホッとしていた。


温暖な宮崎から、寒さ厳しい仙台へ。その環境の変化は、もう何度も体験済とは言え、やっぱりしんどい。ウォームアップを入念にしないと、思わぬケガをしかねない。勝負の年に、ケガで出遅れなんて、真似だけはしたくない。


そんなある日、懐かしい人がグラウンドに現れた。前田浩郎前一軍監督、実は前田さんは二軍監督として、チームに復帰することになったのだ。


一軍の監督を務めた人が、同じチームで、格下のポジションに就くのは、極めて異例。就任記者会見では、そのことを聞かれると


「Eからの誘いをお断りするという選択肢は、私には全くありません。」


と言い切っていた。E一筋の野球人生、前田さんのE愛の前には、些細なプライドなんて、全くの無意味なことらしい。


グラウンドで、俺達に着任の挨拶を行った後、前田さんは選手ひとりひとりと面談を行った。


「一軍監督として、正直二軍の選手を全員把握していたわけではないし、まして2年のブランクの間に知らない選手も増えてるから。」


と言うことだった。時間にすれば、1人5分程だが、前田さんの意気込みが感じられた。


そして、俺の順番となり、監督室に呼び込まれると


「久しぶりだな。また、よろしくな。」


と気さくに声を掛けられて


「監督、その節はいろいろとご迷惑をお掛けしました!」


と思わず、頭を下げていた。
< 211 / 330 >

この作品をシェア

pagetop